
規制当局とライフサイエンス企業の関係には、ダイナミックで複雑な相互関係があります。ライフサイエンス企業の役割はイノベーションの限界を押し広げることであると多くの人が考える一方、規制当局の役割は公共の安全を最優先し、最高水準が守られるよう慎重に審議を進めることです。
しかし近年、この傾向に興味深い変化が生じています。ビッグデータアプリケーションの出現に対する最初の調整期間を経て、主要なグローバル市場の規制当局と医療技術評価機関は、リアルワールドデータ、リアルワールドエビデンス、患者報告アウトカムを組み込んで申請をサポートすることの価値を今まで以上に認識しつつあります。この変化は、患者の声を把握し、患者アウトカムを改善し、医療格差に対処しようとする機関が、患者中心の医療を再び重視することによって推進されています。
これらのツールは、より代表的な臨床試験の確保、結合双生児の比較対象群の使用、患者数が少ない治療法の代替試験デザインの検討など、多くの有望な用途があります。企業は、競争に勝ち残り、最先端治療への公平なアクセスを確保するために、これらのツールを活用することがますます求められていますが、そのためには、早期の意図的な計画と、強固な研究開発戦略、強力な規制および市場アクセス計画、効果的な利害関係者の関与、継続的なイノベーションなど含む多面的なアプローチが必要です。
患者中心医療が躍進の波を起こす
2024年は医薬品開発において、初めてとなる出来事が以下のように、多数行われました。
- 米国でニーマンピック病C型の治療薬としてAQNEURSA™とMIPLYFFA™の2つの医薬品が承認された
- 米国で脂肪性肝疾患により肝臓の瘢痕化を生じている患者に、REZDIFFRA™(resmetirom;Madrigal Pharmaceuticals Inc)が初めての治療選択肢として市場に登場
- 日本でGNEミオパチーを適応症とするACENOBEL® が承認された
- 腫瘍浸潤リンパ球を使用した抗がん剤として、また固形がんに対して承認された初の細胞治療としてAMTAGVI™が米国で承認された
- VYLOYはClaudin 18.2(CLDN18.2)をターゲットとする唯一の治療薬として世界で初めて規制当局からの承認を取得
昨年、主要市場で初めて承認された薬剤は全部で50種類以上にのぼります(全リストはClarivate Drugs to Watch 2025レポートでご確認いただけます)。その多くは、新たな投与経路や、数十年ぶりに適応症承を有するなどファーストインクラスの特徴を持っていました。
このような画期的な医薬品の潮流は、研究者や産業界による何年にもわたる、時には何十年にもわたる患者研究の集大成です。また、ADUHELMやELEVIDYSのような医薬品が最近FDAから承認されたことからも明らかなように、アンメットニーズの高い患者集団の治療ギャップを埋めようとする規制当局の動きも反映しています。
結実の時
甲状腺がんに対する放射性医薬品としてヨウ素131(ヨウ素の放射性同位元素)がFDAに初めて承認されたのは1951年のことです。しかし、半世紀以上が経過してようやくこの分野での本格的な進歩が見られるようになりました。
2023年末のCASGEVY(Vertex Pharmaceuticals Incおよび CRISPR Therapeutics)の承認により、CRISPR-Cas9遺伝子編集細胞療法の世界で初めての承認薬が誕生しました。放射性医薬品と同様に、これらの技術の将来性は、参入を目指す、あるいは自社のポジションを強化しようとする大手製薬会社の間で、M&Aや企業提携の熱狂を刺激しています。(例えば、CASGEVYを製造するVertexは2024年7月にOrum Therapeuticsと9億4500万ドルのディールを締結しました)。
おそらく、現在、製薬業界の M&A における究極のゴールドラッシュは、次世代の体重減少に関するものでしょう。セマグルチドとチルゼパチドの衝撃的な成功は、公衆衛生に多大な連鎖的影響を及ぼす疾患の治療に新たな (ただし高価ではあるが) 希望をもたらしています。Wegovy® と Zepbound® の影響がヘルスケア業界全体に波及する一方で、他のターゲットも、個別に、あるいは GLP-s と組み合わせて、臨床試験で検討されています。
レポート「Drugs to Watch 2025」の詳細はダウンロードしてご確認ください。
*本ブログは、Clarivate™が2025年1月8日に掲載した内容を日本語に翻訳再編集(一部追記を含む)したものです。オリジナルは英文ブログをご参照ください。本資料の正式言語は英語であり、その内容・解釈については英語が優先します。