
英語論文のアブストラクトで「丸括弧」や、「コンマ」や「コロン」などの句読点をはじめとした英語の表記に迷うことはありませんか。こうした表記は、正しく使うことで、読み手に分かりやすい状態で情報を提示できます。
表記の決まりごとはすべて、「スタイルガイド」と呼ばれる、出版物の表記の統一を目的とした書物に書かれていますので、これら様々な表記を使用するのを恐れる必要はありません。例えば「シカゴマニュアル」(正式名称はThe Chicago Manual of Style, The University of Chicago Press)は、一般的な例文を使ったアメリカのスタイルガイドです。科学技術系のスタイルガイドとしては、アメリカ化学会による「ACSスタイルガイド(The ACS Style Guide: Effective Communication of Scientific Information, American Chemical Society)」や、アメリカ医師会による「AMA(AMA Manual of Style: A Guide for Authors and Editors, Oxford University Press)」などがあります。
こうしたスタイルガイドに規定されている表記法を学ぶことで、英語論文を書くとき、又は読むときの迷いが減り時間短縮が可能になるでしょう。
自然科学誌Natureに掲載されている英語論文のタイトルとアブストラクトを例に、どのような表記法が使われているかを確認してみましょう。
「コロン」、「略語」、「セミコロン」、「コンマ」、「ハイフン」が登場しますが、それぞれの用法を説明できるかどうかを確認しましょう。
【コロン(:)でタイトルとサブタイトルを分ける】
タイトル:Navigating artificial general intelligence development: societal, technological, ethical, and brain-inspired pathways
汎用人工知能開発を誘導する:社会的、技術的、倫理的、脳から着想した経路(和訳は筆者:以下同じ)
11 Mar 2025, Scientific Reports, Volume: 15, P1-22
タイトルに早速、代表的な句読点であるコロンが登場しています。ここで使われているコロンの役割として、『シカゴマニュアル』には「メインのタイトルとサブタイトルを分けるのに使う(A colon is used to separate the main title from the subtitle)」という記載があります。
【略語は初出でフルスペルした後に、丸括弧内で略語を記載する】
第1文:This study examines the imperative to align artificial general intelligence (AGI) development with societal, technological, ethical, and brain-inspired pathways to ensure its responsible integration into human systems.
本研究では、AGI(人工汎用知能)の開発を社会的、技術的、倫理的、脳から着想した経路と整合させることで人間の系に確実に統合する必要性について検討する。
アブストラクト第1文には「汎用人工知能(artificial general intelligence)」の略語「AGI」が登場しています。『シカゴマニュアル』や『ACSスタイルガイド』他の各種スタイルガイドには、略語は初出時にフルスペルで先に記載し、直後に略語を丸括弧内に入れて記載する旨が記載されています。2回目以降は、略語単体で使用できます。
【コロン(:)は詳細を述べる・セミコロン(;)は長い構成要素の列挙を区切る】
第3文:Using the PRISMA framework and BERTopic modeling, it identifies five key pathways shaping AGI’s trajectory: (1) societal integration, addressing AGI’s broader societal impacts, public adoption, and policy considerations; (2) technological advancement, exploring real-world applications, implementation challenges, and scalability; (3) explainability, enhancing transparency, trust, and interpretability in AGI decision-making; (4) cognitive and ethical considerations, linking AGI’s evolving architectures to ethical frameworks, accountability, and societal consequences; and (5) brain-inspired systems, leveraging human neural models to improve AGI’s learning efficiency, adaptability, and reasoning capabilities.
PRISMAフレームワークとBERTopicモデリングを用いて、AGIの軌跡を形成する5つの主要な経路を特定した。つまり、(1)社会的統合によりAGIのより広範な社会的影響、一般の採用、および政策配慮に取り組むこと、(2)技術的進歩により実世界への応用、実装上の課題、および拡張性を追及すること、(3)説明可能性によりAGIの意思決定における透明性、信頼性、および解釈可能性を向上すること、(4)認知的および倫理的考察によりAGIの進化するアーキテクチャを倫理的枠組み、説明責任、社会的帰結と関連付けること、そして(5)脳から着想を得た系により人間の神経モデルを活用してAGIの学習効率、適応性、推論能力を向上させることが挙げられる。
コロンの役割として、『シカゴマニュアル』には、先の「メインタイトルとサブタイトルを分ける」ことに加えて、「コロンは直前に記載した内容を説明する要素を導入する(A colon introduces an element or a series of elements illustrating or amplifying what has preceded the colon.)」という記載があります。さらには、『シカゴマニュアル』や『ACSスタイルガイド』などの各種スタイルガイドにおいて、コロンを使う際は、コロンの前で文が完結する必要があり、例えば「X includes:」のように動詞と目的語を区切るコロンは不適切であることが記載されています。上記の例ではit identifies five pathways shaping AGI’s trajectoryで文が完結しているので、要素の列挙を導入するコロンが文法的に正しく使えています。
次にセミコロンが使われています。セミコロンの用法の一つとして要素を列挙する際に要素間を区切ることが挙げられ、『シカゴマニュアル』には、「列挙要素内にコンマが含まれている場合に要素間をセミコロンで区切ることで明確性が増す(When items in a series themselves contain internal punctuation, separating the items with semicolons can aid clarity.)」と書かれています。
【3つの要素を列挙する際の等位接続詞andの前にコンマを付す】
第4文:This study makes a unique contribution by systematically uncovering underexplored AGI themes, proposing a conceptual framework that connects AI advancements to practical applications, and addressing the multifaceted technical, ethical, and societal challenges of AGI development.
本研究は、未開拓のAGIテーマを体系的に明らかにし、AIの進歩を実用的な応用につなげる概念的枠組みを提案し、AGI開発における技術的、倫理的、社会的な多面的課題に取り組むことにより、独自に貢献している。
「A, B, and C」というように3つ以上の要素を列挙する際、最後の2つをつなぐandの前にコンマを付すスタイルがあます。「シリアルコンマ」や「オックスフォードコンマ」と呼ばれるこの区切りは、『シカゴマニュアル』をはじめとした多くのスタイルガイドで推奨されています(When a conjunction joins the last two elements in a series of three or more, a comma—known as the serial or series comma or the Oxford comma—should appear before the conjunction.『シカゴマニュアル』)。
上記の例では、by systematically uncovering…, proposing…, and addressing…という3つの要素の最後の2つをつなぐandの前にコンマを付しています。
第5文:The findings call for interdisciplinary collaboration to bridge critical gaps in transparency, governance, and societal alignment while proposing strategies for equitable access, workforce adaptation, and sustainable integration.
調査結果では、公平なアクセス、労働力の適応、および持続可能な統合のための戦略を提案する一方で、透明性、ガバナンス、および社会との整合性における重大な隔たりを埋めるための学際的な協力を必要としている。
この文中でも、transparency, governance, and societal alignmentのandの前、equitable access, workforce adaptation, and sustainable integrationのandの前にコンマが使われています。
【ハイフンで一語に見せる・コンマで非限定表現を挿入する】
第6文:Additionally, the study highlights emerging research frontiers, such as AGI-consciousness interfaces and collective intelligence systems, offering new pathways to integrate AGI into human-centered applications.
さらに本研究によると、AGIに対する意識の高いインターフェースや集合知システムなど、新たな研究フロンティアが
浮き彫りになっており、AGIを人間中心のアプリケーションに統合する新たな道筋が示されている。
AGI-consciousnessは、ハイフンを使ってAGIとconsciousnessをつなぎ、「AGIに対する意識の高い」を表わす複合的な形容詞として機能しています。また、human-centeredは、「人間中心の」を表す複合的な形容詞として使われています。ハイフンで単語同士をつなぐことで、辞書には掲載されていない形容詞を作ることが可能です。
<such asの非限定用法のコンマ>
さらに、emerging research frontiersの例としてAGI-consciousness interfacesとcollective intelligence systemsがあげられ、such asの前にコンマが挿入されています。この文が伝えたいメインの内容はthe study highlights emerging research frontiersであって、emerging research frontiersの補足的な情報として、such as(コンマあり)に続く名詞が例示されています。
<文末分詞構文のコンマ>
最後に、後半のofferingは、文末に配置された分詞構文です。Additionally, the study highlights emerging research frontiers, such as AGI-consciousness interfaces and collective intelligence systems.という独立した文とThis offers new pathways to integrate AGI into human-centered applications.という独立した文をはじめに考え、コンマと分詞(offering)でつないだのがこの文末分詞構文の表現で、情報を流れよく提示できます。
第7文:By synthesizing insights across disciplines, this study provides a comprehensive roadmap for guiding AGI development in ways that balance technological innovation with ethical and societal responsibilities, advancing societal progress and well-being.
分野横断的に洞察を統合することで、本研究では、技術革新と倫理的・社会的責任のバランスを取るような形でAGI開発を導くための包括的な道筋を提供し、社会の進歩と幸福を促進する。
最終文においても、略語の使用(AGI)、コンマにより導入する文末での分詞構文、そして単語内のハイフン(well-being)の使用が見られます。
以上のように、1件のタイトル・アブストラクトが数多くの表記の決まりにしたがって書かれていることがわかります。こうした表記法は、正確に使用することに加えて、読み手にとっての明確性を増すためにも効果的に使いこなせるとよいでしょう。
4月17日(木)開催の2025年度の第1回セミナーでは、クラリベイト社のデータベースWeb of Scienceを使って入手した英語論文のアブストラクトの例を使用し、スタイルガイドに照らして主要な表記のルールを学びます。特に、【略語】【ピリオド】【コンマ】【コロン】【セミコロン】といった句読点、【エンダッシュ】や【エムダッシュ】、【ハイフン】といった表記の決まりごと、さらには括弧や数字、単位の表現を扱います。表記にまつわるルールを効率的に学んでいただけますので、是非ご参加ください。
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